犬ターネット

9pmatgfm を爆音で聴いたのであった

2012-01-12 music

電車おりたら gaji のラストアルバム「9pmatgfm」が再生された。ふと思い出して音量を限界ギリギリまであげた。ああ、最高すぎる。

そうそう、gajiのギタリスト君島さんの 9pmatgfm レコーディングよもやま話が結構おもしろいんですよ。以下長いんだけど引用しとく。9pmatgfm もってる人は読むといいんじゃないでしょうか。持ってない人も、過去にバンドやってたりレコーディングしたことある人だったらおもしろく読めるんじゃないでしょうか。

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[君島による好事な長話]

はてさて(コラム1参照)。

■コラム1
のっけからナンですけど,音について文字でディスカッションするというのは非常に苦しい。なので,この左側のコラムではビジュアルで例えてみるのを思い付きました。牽強付会はご容赦。

最終的なバンドの作品を,1枚の絵,としてみます。gaji の今作の話というより,一般的な録音工程の話として聞いてください。そして,その絵は,写真を加工したものだけを素材として使う,という原則があります。

なぜ写真か?というと,マイクとカメラには非常に類似点があると思ったので。レンズの特性や指向性とか,メカニカルな甘さがその機種の個性として受け入れられたりするところとか。

すると,録音という作業は,こう考えられるんじゃなかろうか。単体の楽器や複数の楽器,またはアンサンブル全体を1枚ずつ写真に撮ると考えてください。ギターだけの写真,ボーカリストだけの写真,スネアだけの写真,ドラムセット全体を撮ってみた写真,とか。いろんな構図で,枚数の制限はまあ別にありません。

素材写真が撮れたら,つぎにそれらを1枚のキャンバスとかボードに貼り付けていきます(音でいえばミックスダウンといいます)。合成写真を作るわけです。合成の方法ですが,...コラージュでも切り貼りでも影絵でも透かし絵でも。イマジネーションつーか解釈力つーか。

で,最後に,ミックスダウンでできた一枚の絵/合成写真を,全体の構図や色調にまとまりが出るように仕上げる作業があります(音でいえばマスタリングといいます)。余計なはしっこを切り取ったり,ゴミをとったり,色調を全体的に明るくしたり暗くしたり鮮やかにしたり引っ込ませたり。素材が写真なだけに,この最終工程が特に重要になってくるんじゃなかろか。

こんなところで説明になったでしょうかねえ。視覚と聴覚の違いは,想像力で補ってくださいッ。

「9pm at gfm」 ですが。一聴して,空気感が極端に多いと感じると思います。フンイキ重視な音作りってつもりはなくて,いろいろと実験をした結果です。どんな実験かというと...,

と言いかけておいて話を逸らすようですが,増吉に本作の音をひとことで表現するなら?と訊いてみたことがあります。しばし唸った末,「オフマイク天国...」。このキャッチフレーズ,気に入りました。

というわけで本作は,オフマイク天国,です。それが実験です。

オフマイク,というのはなにか,軽く説明しますね。対義語は,オンマイク,といいます。ライブやコンサートで見られるような,楽器にマイクをべったりくっつけて,音を拾うのが,オンマイク,です。まあ実際はくっつけないで数センチはあけますけど。ライブに限らず,レコーディングでも同様に一般的で標準的な手法です。各楽器の音の分離がよく,クリアな音が録れます。はははは。そう信じられています。前作「ten to ten past ten」参照。なんつって。スティーリーダン,とか? 古ぃか。

それに対して。オフマイクは,オーケストラの収録などに一般的なやり方ですが,ホールや部屋で響かせた音をまるごと録ってしまうやり方です。大雑把に見えてじつは緻密な手法です。通常のレコーディングでも,部分的には使います。ドラムの頭上に立ててシンバルを録ったり。(コラム2参照)

■コラム2
オフマイク/オンマイクを,遠写/接写と言い換えてもいいです。遠写というと望遠みたいで極端ですが,被写体を撮るときにある程度背景が写りこむというくらいの距離感でもオフマイク,と呼べるんじゃないかなあ。
それぞれの用途に向いてるカメラってのもあるわけで,撮りたい写真によってカメラを変えていきます。ピントが甘くて暖かい色味のカメラとか,エッジがシャープで接写向きのカメラ,とか。あと,レンズですね。広角がいいとか,魚眼がいいとか。

オーディエンス無しで録りたかったのもこの方法のため,です。お客さんがいると音を吸っちゃって困るし,お客さんが立てる足音,衣擦れよりも小さい音(楽器の音)をちゃんと録音したかったからです。それくらい微小な音が,空間の立体感や距離感の把握にとても重要だと考えました。

通常のライブのPAとは違う使い方,というのは,ドラム,ベース,ギターにはPA用にはマイクを立てなかったことです。楽器は生音だけで十分なので,基本的に声だけをPAスピーカから出しています。部屋に響いた声を録音したかったわけです。よ。もうひとつ理由を挙げれば,声のマイクに,他の楽器の音が入り込みすぎる(特に声を出していない部分で)ことが予想されたので,その対策でもありました。

グレープフルーツムーンで録ろうと思い立ったときに,浮かんだイメージというのは...,よく響く部屋の中では,音量の変化が,音色の大幅な変化を伴います。音が大きくなるにつれて,音の粒立ちが違って聞こえるし,四方から包み込まれるような感じが増します。最大音量時には音の方向性が滲んで,箱の中で飽和する,というか...うーん。

じゃあ,たとえば。

天井も壁も床も鏡張りの部屋,その中にいる自分を想像してみてください。自分の前にハダカ電球が1個だけ吊り下がっていて,明滅しています。明かりが弱いと,やわらかく光る電球の色や,輪郭がわかると思います。明かりが強くなると,四方に反射して,電球の輪郭や鏡面との境が区別できなくなり,部屋全体も明るくなってくる。

そんなイメージをどうしたら録音できるか考えました。人間の耳が感じているように録るというのは存外に難しい。結果,ちょっと珍しい装置を使うことにしました。表ジャケの真ん中に円い黒いのが写ってるでしょ?人間の頭に模した12インチくらいの円盤の両側中央に無指向性のマイクを,両耳みたいな格好で2本立てます。optimal stereo signal 方式という名前がついてます。小編成のストリングスアンサンブルを録音する時にやる(ひとがたまにいるらしい)ような方法なんですけど,それをベースに,ロックらしい低音がある位置にマイクを立てて音を補えばいいんじゃないかと。まあ,めずらしいやり方です。珍方法。

CDから聞こえる音のざっと8割は両耳マイクからの音です。8割つったってどういう数値化なのか,根拠はありません。はぁ。

[君島による好事な長話...の続き]

長谷川は「9pm at gfm」がライブ盤といえるかどうかと言いました。が,ぼくとしては「9pm at gfm」はスタジオ盤とはどう違うのか。こっちの方もラディカルな問題だったりします。ぼくはレコーディングというプロセス...ある意図をもって素材からパッケージへ収斂させる工程...をいつも疑ってかかってます。毎作,ご破算で願いましては〜,ってところから組み立てていってます。

今回は,演奏の鮮度,を第一にもってきました。全員がいちばん演奏しやすいようなセットアップ。ヘッドフォンしながら演奏しないですむように,お互いの音がよく聞こえるように。こういう環境作りが,鮮度を保証する最低ラインかな,と。

オフマイク天国方式に,しっかりした意味を持たせるためにもう一歩踏み込んで考えました。楽器のダイナミクスのコントロールが,音像の幅や奥行きや高さにダイレクトに比例するような,そういう音を作ってみたいと思った。音の拡がり方や進み方や溢れ方や色の具合だとかをプレイヤーがコントロールする。今はそういう演奏ができてる。それを録りたい。

というわけで,長谷川が云った通り4人の真ん中に置かれたメインのマイクの他に,プレイヤーの演奏のニュアンスの変化がいちばん出やすい位置に補助的なマイクを数本置いて,あらかじめそういう仕掛けを作る必要があると思いました。メインのマイクの位置が先に決まり,そのあと楽器の配置を決め,そして最後に補助マイクをどこに仕掛けるか。

その仕掛けを使って,ギターをこう弾けば右下から左上に音が延びて飛んでいく感じになるな,とか,スネアをこう叩けば低音の芯が太りつつ倍音が上に抜けていくな,とか,ベースをこう弾けばギュッと前に出てくるような音になるな,とか,声をこう出せば部屋の隅々に沁みていく感じが出るんでないかな,とか。まあそんな狙いでした。

結果的には(コラム3参照),この方法は演奏しながらミックスしているようなプロセスになりました。

■コラム3
写真の例えで言えば,今回のレコーディングでは14枚の写真を撮りました。ミックスダウン時に使ったのは10枚だったかな。4人の真ん中の位置で2枚をメインとして。ドラムの田口と真正面で向かい合う格好です。真正面つっても,田口は顔をあんまり上げないから目はあわないと思います。えーと...,楽器のどアップの写真はひとつもなくて,壁や床も半分は写ってるくらいのややアップが数枚。その他に部屋の隅の薄暗がりだとか,入り口の扉だとか,そういう写真もありました。

ミックスダウンでは,メインの2枚の写真に写った部屋の寸法にあわせて,他の8枚の写真を重ね貼りしていった感じです。上述の通り,主観的にはメインの2枚が8割がたを占めています。コラージュして遠近感を誇張するようなやり方は結局しませんでしたねえ。デッサンというかパースが狂わないように気を配って,陰影が際立つくらいの加減が結局一番良かったように感じました。よ。

実際,ミックスダウンにかかった時間だけ見ると,前作の10分の1くらいじゃなかろか。前々作の30分の1くらいか。あ,これも数値化に根拠はないです。はぁ。...まあ,楽だったわけですよ。もっちろん,完全に意図通りに行ったわけじゃなくて,雑に立てておいたマイクが実は面白くて曲によって使ってみたり,という偶然もありました。こういうの,楽しい。

上述の通りミックスダウンは非常に短期間で済みましたが,そのぶんマスタリングを何バージョンも作って時間をかけました。個別の楽器,個別の曲の像は演奏時にすでに出来上がっていたので,そのぶん全体の色合いや光の濃淡の加減をたくさん試しました。5バージョンくらいあったと思います。そのなかで一番空気感が強かったのを選びました。


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